会社員経験を武器に転身 - 料理専門カメラマン藤田ちひろ先生に学ぶ、キャリアを拓く決断力
2025/09/27

FANTISTの「スマホでプロ級!料理撮影実践コース」で講師を務める藤田ちひろ先生は、広告代理店や化粧品会社での会社員経験を経て40歳でカメラマンへと転身、現在は料理専門カメラマンとして活躍しています。異業種からカメラマンへの転身は、迷わず一歩を踏み出す決断力があったからこそ実現しました。
今回は、挑戦を選んだその軌跡や日々写真と向き合う中で大切にしていること、カメラの腕が上達するポイントなどをうかがいました。
会社員からの転機は「私、このままでいいのかな?」という疑問から
ーー先生がカメラに興味を持ち始めたのは、いつ頃からですか?
父が趣味でカメラをやっていたので、幼い頃からカメラは身近な存在でした。父は主に家族の写真を撮っていて、子どものときは撮られる側でしたが、高校生くらいになった頃から自分でも撮るようになったんです。
最初は「写ルンです」のような使い捨てカメラで人物撮影をしていましたが、だんだんと風景や植物を撮るのが好きになって、父のお下がりのフィルムカメラを経てコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)で撮るようになりました。子どもが生まれて一眼レフカメラを使い始めましたが、それまではコンデジで撮っていたんです。
ーーカメラを手にしたのはお父様がきっかけだったんですね。ではその流れでプロの道を目指し始めたのですか?
カメラはあくまでも趣味としてやっていたので、学生時代も「カメラマンになりたい」と思うことはありませんでした。実際に大学卒業後は空間づくりの会社に営業兼ADとして入社し、その後も転職をしながら18年会社員を続けていました。
だけど30代も終わりが見えてきたころにふと、「私、このままでいいのかな?」という疑問が頭をよぎったんです。「40代をこのまま過ごすのかな?」と。そこから、ちょっと迷走が始まりました(笑)。

以前からスピリチュアルが好きで「マナカード」というカードリーディングで人の悩み相談に乗っていたこともあり、スピリチュアルカウンセラーになろうかとスクールの説明会に参加したんです。でもそのときの講師の方に、「今もこれからもずっと好きで、学び続ける向上心を持っていられて、お金を払ってでも人にやってあげたいことって何?」って聞かれて、「あ、写真だな」って。
写真は昔から変わらず好きでしたし、これからも好きでいられるって思ったんです。スピリチュアルの世界も魅力的でしたが、仕事として考えるとカメラマンの方が職業として成立しやすいと感じました。
ーー趣味として風景写真や人物写真を撮ってきた中で、料理写真を選んだのはどうしてなのですか?
実は、最初に目指していたのはニューボーンフォトグラファーでした。「赤ちゃんを迎えるご家族の幸せそうな様子と、あっという間に過ぎてしまう新生児の姿を撮っておいてあげたい」と思ったんです。スクールに通って、病院(産院)での撮影実習も受けて、勤めていた会社の退職も3ヶ月後に決まり、独立に向けて着々と準備をしていました。
そんなとき、カメラマン向けのオンラインイベントで、今の師匠にあたるフードフォトグラファーに出会ったんです。師匠の写真が本当に美しくて……もう、芸術作品という感じで衝撃を受けました。加えてお人柄もとても素敵で一気に魅了されました。
料理撮影は仕事が多いのに専門のカメラマンが少ないこと、平日昼の撮影が多く土日は比較的休めること、商品を預かるリモート撮影なら自宅で撮影ができることなど、「フードフォトグラファーは女性が活躍できる仕事」という師匠の言葉を聞いて、子どもとの時間をもっと持ちたかった私は「これだ!」と思いました。
そこから迷わず養成講座を受講、すぐに大手企業と契約が決まり、フードフォトグラファーとして開業しました。

料理は、光の向きや強さ、器の色、盛り付け方ひとつでまったく印象が変わります。湯気が立ち上る瞬間や、水や油がはねる瞬間。そういう“自分の目では捉えきれない一瞬”を切り取れるのが写真の魅力ですし、料理はその面白さを実感させてくれる被写体だと感じています。
FANTISTの講座では、スマホで撮る料理写真のコツを丁寧に解説
ーーでは次にFANTISTについて教えてください。講師を務めてくださった講座はどのような内容ですか?
今回の「スマホでプロ級!料理撮影実践コース」は、スマートフォンのカメラで本格的な料理写真を撮るためのノウハウを解説しています。初心者の方にも伝わるよう、できるだけシンプルで丁寧な説明を意識しました。
料理撮影は「センスが必要」と思われがちですが、実際は小さなコツの積み重ねなんです。レッスンでは、光の使い方、構図の取り方、背景の選び方などの基本的な内容から、料理のシズルを表現する方法やスタイリングの考え方といった内容まで、幅広くポイントをお伝えしています。

FANTISTは動画形式なので、何度も見返したり、分からないところを止めたり、自分のペースでじっくり学べるのも大きな強みだと思います。私自身もこれまでオンラインレッスンを受講したことがあり、オンラインや動画ならではのメリットを体感していたので、今回お声がけをいただいたときはすぐにイメージがわきました。
かつての私のように子育てをしながら学びたい、会社勤めをしながら学びたいという方にも受講しやすい形式ではないでしょうか。
ーー講座では先生の丁寧で落ち着いた説明が印象的です。
教える上では「撮る人の目線に合わせること」を一番に意識しています。撮影環境や使っている機材、そしてその人のレベルや目指す方向によって、伝え方は変わってくると思うんです。
あとは、なるべく専門用語を使わずに、かみ砕いて伝えること。知識以上に感覚を大切にしてほしいなと思っていて、「こう撮らなきゃいけない」ではなく「自分がいいと思えるかどうか」を軸にしてほしいんです。

昨年開催された地域のイベントで、子ども向けのフードフォト体験ブースを出したのですが、子どもたちの発想が本当に自由で、スタイリングも面白くて。ちょっとしたコツを伝えるだけで出てくる成果物に変化が表れたり、すごく楽しかったんです。
教えること自体というよりも、相手の「わかった!」といううれしそうな反応や成果物の変化に、喜びややりがいを感じています。
好きと感じる写真の「何が好きか」を言語化することが上達の近道
ーー学生の頃から写真を撮り続けていらっしゃる先生にとって、写真の魅力はどのようなところにありますか?
自分の目では見られない世界を見られるところが面白いです。たとえば、水のしずくが空中で止まっている瞬間や、粉がふわっと舞い上がっている様子、光の当たり方でぼんやりと幻想的に見える景色など、目ではとらえきれない瞬間を写真は写し出してくれます。

写真は「時を止める」ことができる道具であり、普段は気づかない美しいシーンを切り取って見せてくれる。そうした「見たことのない世界」を垣間見られるのが、私にとって写真の最大の魅力です。
ーーシーンを瞬間的に切り取れるのは写真の大きな魅力ですよね…!カメラの腕が上達するコツはあるのでしょうか?
まずは、「この写真好きだな」と思う写真をたくさん見てください。そして、それを真似して撮ってみてください。
大事なのは、「なぜその写真を好きだと思ったのか?」を言葉にすることです。感覚的な「好き」を言語化することで、自分の中の引き出しが増えていきます。光の使い方、構図、色の組み合わせ…そういうことを意識しながら撮ると、どんどん面白くなると思います。

それから、撮りたいイメージを明確にすることも大切です。「美味しそうに見せたい」のか、「温かさを伝えたい」のか、「スタイリッシュに見せたい」のか。その写真で何を表現したいのかによって、必要な工夫は変わります。目的を意識してシャッターを切ることで、写真の仕上がりは確実に変わっていきます。
いろんな世界観を表現できる必要はなく、自分の好きな世界観を表現できていればいいと思うんです。それを続けることで、自分の”得意”につながっていくのではないでしょうか。失敗してもいいので、とにかく数をこなして、自分の「好きな世界」を見つけていってほしいです。
ーー先生のように「カメラを仕事にしたい人」に向けてアドバイスをお願いします。
自分の世界観が伝わるポートフォリオをぜひ作ってください。自分は何が得意で、どのようなことを提供できるのかを明記することもポイントです。
もし会社員として働きながらカメラマンを目指している方がいたら、「その経験は絶対に活きますよ」と伝えたいです。

クライアントの希望を汲み取り、さらに「こうしたらもっと良くなりますよ」という提案ができるのがプロの仕事だと思うのですが、私自身、会社員時代の業務経験がすごく役立っています。たとえば私は営業職やディレクター職の経験を活かして、依頼された写真を撮ることに加えて、販売促進効果を高めるアイデアを提案することもあるんです。
それにクライアントとやり取りをしていると社内事情がなんとなく想像ができることも多くて、その分コミュニケーションがスムーズになります。これも企業勤めの経験があったからこその強みだと思います。
ーー最後に、先生が今後挑戦してみたいことを聞かせてください!
この業界には、表現力や技術力などが素晴らしい、尊敬するカメラマンの方がたくさんいるので、まずはその方々に少しでも近づいて上達していきたいです。
仕事の面でいうと、チームで取り組む仕事をもっと増やしていきたいと思っています。カメラマンって一人でもできる仕事なんですけど、プロフェッショナルが集まって協力し合って作り上げていく現場がすごく面白くて好きなんですよね。
それから、レンズ交換式カメラの撮影講座も、いつかやってみたいです。スマホカメラの写真ももちろん素敵なのですが、レンズ交換ができるカメラにはまた違った魅力があるので、それも多くの人に伝えていきたいです。
プロフィール
藤田ちひろ
料理撮影専門カメラマン。
空間プロデュース会社、広告代理店、化粧品会社にてディレクター職など販売促進業務に携わったのち、写真家へ転身。プロップスタイリングを含めた撮影技術を学び、現在は店舗のメニュー写真や企業の商品写真、SNSやWEB広告用の写真などを撮影している。
・FPA日本フードフォトグラファー協会 正会員
・FPA Professional Food Photography Awards 2023 BROZE AWARD受賞(2024年2月)
・FPA Professional Food Photography Awards 2024 HONORABLE MENTION受賞(2025年3月)
藤田先生に学ぶ
スマホの料理撮影実践コース
普段使っているスマホで料理をおいしそうに撮影するための秘訣を学べるレッスン。光の使い方や構図、スタイリングの工夫、レタッチ法まで丁寧に解説しています。シズルを表現する方法やスタイリングについても学べる実践的な内容です。
