その作り手にしか表現できない可愛さがある ー 羊毛フェルト作家 MEBARUさんが込める想い
2025/05/30

FANTISTで羊毛フェルトの作り方講座を開講している、羊毛フェルト作家のMEBARUさん。MEBARUさんの作品は手のひらに乗るほどのサイズから「てのり猫」という呼び名で多くの人から愛されています。MEBARUさんが羊毛フェルトの道を歩むきっかけとなった愛猫”めばる”のお話しや、動画レッスンに感じる魅力などをうかがいました。
羊毛フェルトをはじめたのは「愛猫”めばる”の姿を形に」という想いから
ーーではまずはじめに、MEBARUさんが羊毛フェルトをはじめたきっかけを教えてください。
以前自宅で飼っていた、”めばる”という名の猫の存在がきっかけなんです。めばるは、本当に不思議に感じるほど、強く優しい猫でした。私が「痛い!」と声を出せば必ず走ってやってきたし、赤ちゃんが泣くとそっと隣に寄り添って寝てくれました。一緒に暮らす猫たちが喧嘩をすると仲裁に入るようなボス的な一面もあり、猫たちからも慕われていました。体もとても大きくて、元気なときは体重が13kgほどあったんです。

そんなめばるも寿命が近づくにつれだんだんと瘦せ細り……かつてのボス感が薄れてしまったその姿に胸を痛めていたある日、書店で羊毛フェルトの本を見かけました。本の中で紹介されていた猫の作品が本物の猫の毛質にとても近くて、「これならめばるに近い姿が作れるかもしれない、やってみたい」と思い作り始めました。
ーー書店で羊毛フェルトに出会ったんですね。どこか教室に通われたんですか?
本を何冊も読み羊毛フェルトとはどういう物なのかを学びましたが、自分の作りたかった小さい猫の作り方はどこにもありませんでした。そこから、作りたい型に仕上げるための試行錯誤が始まったんです。
今まで455匹の猫を作って来ましたが、小さいサイズの猫を作り始めたのはたしか30匹目くらいからでした。耳や手足を小さく自然に作るのが難しく、今の作り方を考え型になった事で、”てのり猫作り”が始まったように思います。そこから何匹作っても、少しでも可愛く工夫したい気持ちは何も変わらず今も試行錯誤中です。
ーー全くご経験がない中、独学でこの作品にたどり着かれたことに驚きです…!
思い返すと私は幼い頃から”猫”と”ものづくり”が好きでした。紙粘土で猫を作ったり猫の絵を描いたり、そういうものが家に残っているのを目にすると、あの頃の自分が今に繋がっているなと感じます。
ーーMEBARUさんにとって羊毛フェルトの魅力はどのようなところにありますか?
私が羊毛フェルトを作り始めたのは2016年の暮れ頃だったのですが、その翌年の10月にめばるは亡くなってしまいました。大好きなめばるとのお別れはすごく辛かったけれど、めばるを思いながら羊毛に触れる時間は本当に充実していました。

一針一針縫いながら、かわいいめばるの姿やめばると過ごした日々が自然に思い浮かんで、辛い悲しはずの時間が楽しい時間に変わる感覚でした。さらに、そうして丁寧に縫い上げた自分の作品を喜んで購入してくれるお客様がいるということも、私にとって大きなやりがいになりましたね。
動画レッスンなら羊毛フェルトの細かな作業もしっかり伝えられる
ーーでは次にFANTISTでのご活動について教えてください。最初に羊毛フェルトの講座を出品いただいたのは2020年頃でしたよね?
そうなんです。それまでは作家としての活動がメインで、誰かに教えるということはしていなかったのですが、FANTISTさんから「講師をやってみませんか」とお声がけをいただいたことがきっかけでした。
ーーその時はどんな風に思われましたか?
作品をこの形にするまで相当な試行錯誤があって、自分なりの工夫を重ねて何年もかけてようやくたどり着いた感覚があったので…正直に言うと一瞬迷う気持ちはありました。でもその迷い以上に、羊毛フェルトをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いがあったんです。
私が羊毛フェルトを始めたばかりのころを思い返すと、本を読むだけではわからない「これは一体どうやっているんだろう?」という部分がとても多くて、かと言って通う教室も簡単には見つけられず、あの時の私と同じような人がたくさんいるんじゃないかなと感じていました。

自分が動画レッスンを開講することで、そういう方々につまづき解消のヒントを教えられたり、新たに「羊毛フェルトを作ってみたい」と興味を持ってくださる方が増えて、今より羊毛フェルト界が盛り上がったらいいなという期待を込めてチャレンジすることに決めました。
ーーそうだったんですね…!実際に講師をされていかがでしたか?
羊毛フェルトの作業はとても細かいのですが、制作中の手元をアップでお伝えできるのは動画の魅力です。また、完成までの工程が多いことも羊毛フェルトの特徴のひとつですが、動画であればお伝えしたい大事なポイントを全て盛り込めます。ワークショップなどの場合、もちろん対面の良さはありますが、時間が限られてなかなかそうはいかないので、動画ならではの良さを感じています。
ーー実際に受講者の方からはどのような反応がありますか?
レッスンを受講して「作品が出来ました!」と見せていただけることが多いのですが、それが本当にうれしいです。同じレッスンを受けて同じ技法で制作しても、作品ごとに作り手の個性が表れていて、その人にしか表現できないかわいさがあるんですよね…!

中には「うまく作れませんでした」と見せてくださる方もいらっしゃいますが、私自身は”器用に仕上げる=価値”とは考えていなくて。多少形が崩れてしまっていたとしても、すごくかわいくて素敵な作品はたくさんありますし、特に最初の頃であれば「形に仕上がるだけでも充分すごい!100点満点!」と思っているんです。私もはじめから上手に作れたわけでは全くなくて、2匹、3匹……と回を重ねて何年もかけて少しずつコツをつかみました。

羊毛フェルトは1つずつの作業工程が難しいというよりも、初めてやる作業だから難しく感じる部分が大きいと思います。スタートして思うように作れなくても、続けていたら必ず上手になれるので、あきらめずに作り続けてもらえたらうれしいです。
作品づくりもレッスン動画も、今後やりたいことはたくさん!
ーー最後に、MEBARUさんが今後新たに挑戦したいことがあれば教えてください。
私はこれまで猫の作品を作ってきましたが、2023年頃から時間のあるときに少しだけ犬づくりもはじめていました。完成した柴犬を昨年SNSで発信したら、想像以上に反響が大きくて。今年はいろんな犬を作っていきたいと思っています。以前出版した「てのり猫」の犬バージョンで「てのり犬」の本もいつか作りたいなと密かに目標にしているんです。

ーー「てのり犬」の本、私も読みたいです!そしてFANTISTでも犬の作り方レッスンを開講してほしいです!
実は「犬の作り方を知りたい」というお声もたくさんいただいているので、犬の作り方講座もいつか出品できたらと考えていました。あとは、受講者の方から「ここがうまくいかないんです」という質問もよくいただくのですが、みなさんから質問いただく工程が大体同じところで共通しているので、そういったつまづきポイントを重点的にお伝えするレッスンもいいかもしれないと想像しています。

ーーそれはぜひお願いしたいです!
やりたいことは本当にたくさんあるんですが、とにかく時間が足りなくて(苦笑) でもひとつ思っていることは、「FANTISTで講師をしたおかげでやれたことがたくさんある」ということです。作家として生計を立てるにはベースとなる収入や時間が当然欠かせませんが、ここがとても難しいところで…。私はFASNTISTへ出品したことが活動の土台の一部となり、また次の活動につなげていけたと感じているんです。動画レッスンを通じて羊毛フェルトを楽しむ人が増えたり、受講者さんとのつながりを持てる喜びを得られたのはもちろん、そういった意味でもFANTISTにレッスンを出品して本当によかったと思っています。
プロフィール
MEBARU
神奈川県在住の羊毛フェルト作家。 2017年に羊毛フェルトに出会い、独学で制作活動をはじめる。高さ4~8cmほどのミニチュア猫を制作し、Instagramアカウント @mebaru_felt_cat のフォロワーは13万人を超える。2024年2月に『羊毛フェルトで作る てのり猫』(日本ヴォーグ社)を発売、2025年7月30日に『ちっちゃなねこたちのおるすばん 羊毛フェルトで紡がれたてのり猫 の世界』(小学館)を発売予定。