嚥下食の「とろみ」を解説|とろみ調整のよくある失敗と改善策も紹介
2025/12/26
嚥下食を調べると「食事形態」「とろみ」など専門用語が多く、咀嚼嚥下(そしゃくえんげ)の状態に応じた調整の必要性が分かりづらいと感じる方も少なくありません。
この記事では、嚥下食の形態やとろみの基本をやさしく解説し、「なぜこの形が必要なのか」を理解しながら、家庭でも安心して続けられる食事づくりをサポートします。
目次
◼︎なぜ嚥下食には「分類」があるの?
嚥下食(えんげしょく)には、さまざまな種類や段階がありますが、「どうしてこんなに分類が多いの?」と疑問に感じることも多いはずです。咀嚼嚥下の力には個人差が大きく、日によっても変化します。そのため、一人ひとりに合わせた食事形態が必要になります。まずは、分類が存在する理由を理解することが大切です。
嚥下機能には個人差がある
嚥下機能は、年齢や病歴、認知機能に加え、咀嚼嚥下に関わる筋肉の状態によっても大きく異なります。同じ高齢者でも、同じ病名でも、食べられる状態は人によって本当に違います。さらに、その日の体調や疲労、時間帯によっても飲み込みやすさは変化します。つまり、「誰にでも合う嚥下食」というものは存在しません。個人差を理解することが、安全で無理のない食事づくりの第一歩になります。
安全性を守るための基準
嚥下食の分類は、咀嚼嚥下の働きが弱くなった場合に誤嚥や窒息を防ぐための指標でもあります。医療や介護の現場では、経験や勘に頼らず、明確な基準に沿って「どの形態が安全か」を判断します。この基準は退院後の生活にも役立つもので、家庭で迷ったときに立ち戻れる“安全の目安”として重要な存在です。
◼︎病院・施設で使われる嚥下食の考え方
病院や介護施設では、嚥下機能に合わせて食事形態を細かく調整しています。家庭では聞き慣れない段階名が登場することもありますが、それぞれに明確な意味があります。なぜこの形?なぜこの固さ?――その背景を知ると、退院後の食事づくりにも迷いが少なくなります。
食事形態・とろみの段階とは
病院や施設では、嚥下機能に合わせて食事の形状を段階的に調整しています。段階は「食べられるかどうか」ではなく、咀嚼嚥下が安全に行えるかどうかを基準に決められています。常食から軟菜食、ソフト食、ミキサー食、ゼリー食へと進むにつれて、より飲み込みやすい形に変わります。また、飲み物や汁物は「薄いとろみ」「中間」「濃いとろみ」など粘度を変えて調整します。
退院時に説明される内容の意味
退院時の説明では、「この形の食事で」「とろみはこのくらいで」「刻み食は避けてください」などの指示がよくあります。これは制限ではなく“安全を守るための目安”。意味を理解することで、家庭でのアレンジや応用がしやすくなります。「なぜその形態なのか」を知ることで、迷わずに日々の食事を整えることができるようになります。
◼︎とろみの役割と重要性
咀嚼嚥下を助けて安全に飲み込むための工夫として欠かせない要素です。「なぜ必要なのか?」「どんな場面で使うのか?」を知っておくと、安心して食事を提供できるようになります。食べ物の流れをゆっくりにし、飲み込みを助けるための“安全を支える工夫”としての役割を理解しましょう。
なぜとろみが必要なのか
嚥下機能が弱くなると、さらさらした液体は喉へ流れ込むスピードが速くなり、咀嚼嚥下の動作が弱くなると特に誤嚥しやすくなります。とろみをつけることで食べ物がまとまりやすくなり、口から喉へ移動するときのコントロールがしやすくなります。とろみは安全性を補うための大切な調理方法です。
誤嚥防止につながる理由
とろみがあると嚥下反射が間に合いやすく、気管に入りにくくなります。むせが減ることで“食べるのが怖い”という気持ちも軽減され、食事への意欲が戻ることもあります。安心感を持って食べてもらうためにも、とろみの役割は欠かせません。
◼︎とろみ剤と片栗粉の違い
家庭でとろみをつけるとき、「片栗粉ととろみ剤のどちらを使えばいい?」と迷うことはよくあります。それぞれに特徴や向き・不向きがあり、用途に合わせて使い分けることで、咀嚼嚥下の負担を減らし安全に食べられる形態が作れます。まずは両者の違いと、使う際に気をつけたいポイントを押さえておきましょう。
それぞれの特徴と注意点
片栗粉は加熱するととろみがつきますが、温度変化で粘度が変わりやすく安定しないという特徴があります。冷めると固まったり、逆にとろみが弱まったりすることもあり、嚥下食では一定の粘度を保つのが難しくなります。一方、とろみ剤は温度に左右されにくく、安定したとろみが保てるのが大きな違いです。
とろみ剤を使う上で大事なポイント
とろみ剤は適切な量で正しい粘度を作ることが重要です。少なすぎると誤嚥リスクが高まり、多すぎると飲み込みに力が必要になります。パッケージの表示は必ず確認し、毎回同じ量と作り方で安定したとろみを作る習慣をつけましょう。
◼︎とろみを使って“おいしく”仕上げる調理のコツ
とろみは安全のためだけでなく、「おいしさ」を左右する大事な要素でもあります。とろみ剤を入れるタイミングや火加減、水分や油脂の使い方を少し意識するだけで、仕上がりはぐっと変わります。
「嚥下食はおいしくない」というイメージを変える調理の考え方については、「嚥下食はおいしくない?そんな誤解を変える調理のコツと食材選び」でも詳しく紹介しています。
調味は先、とろみ剤は最後に入れる
とろみ料理では、まず調味料で味を整え、最後にとろみ剤を加えるのが基本です。先にとろみをつけると味が均一に混ざりにくく、濃い部分や薄い部分が出やすくなります。味を決めてから“仕上げ”としてとろみを入れることで、味のぶれを防ぎ、毎回安定したおいしさに整えやすくなります。
油脂や出汁を組み合わせて風味をアップ
とろみは、安全性を高めつつ咀嚼嚥下しやすい“まとまり”を作るだけでなく、風味を閉じ込める役割もあります。バターやオリーブオイル、ごま油などを少量加えると、なめらかさとコクが増し、飲み込みやすさもアップします。水の代わりに出汁やブイヨン、牛乳などを使えば、水っぽさが減り、深みのある味わいに仕上がります。
◼︎とろみづけに活用できる食材の紹介
「とろみ剤」を使う以外にも、食材の粘度を活用する方法もあります。食材そのものが持つ自然な粘度やとろみに注目すると、無理なくおいしく仕上げられます。身近な食材で手軽に試せる方法をご紹介します。
野菜でとろみが出る食材(芋類・かぼちゃなど)
じゃがいも、さつまいも、かぼちゃなどの芋類は、加熱すると自然なとろみが出る便利な食材です。ペースト状にするとまとまりが良く、スープや煮物のとろみづけにも活用できます。水を加えすぎなくてもなめらかに仕上がり、味が薄まりにくいのも利点。甘みや栄養もあり、少量でもエネルギーがとれるため、食が細い方にも使いやすい食材です。
粘りのある食材(長芋・里芋・おくら・なめこ)
長芋や里芋、おくら、なめこなど“粘り”のある食材は、自然な粘度が特徴で嚥下食との相性が抜群です。とろみ剤を使わなくてもかける・混ぜるだけで扱いやすいとろみに変わり、飲み込みやすくまとまりのある食形態になります。香りや食感も残るため、単調になりがちな嚥下食に変化がつき、食事の楽しさを広げるアクセントにもなります。
乳製品・豆製品を使ったとろみ(牛乳・豆乳・ヨーグルト)
牛乳や豆乳、ヨーグルトなどの乳製品や豆製品は、自然なとろみとコクを生かせる食材です。牛乳や豆乳は加熱すると濃度が上がり、スープやシチュー、ソースに最適。ヨーグルトはほどよい酸味が加わり、味が単調になりがちな嚥下食にメリハリが出ます。水ではなく“味のある液体”を使うことで、風味豊かに仕上がり、満足感の高いとろみを作れます。
◼︎とろみ調整で失敗しないためのポイント
とろみづけは安全性に直結するだけでなく、料理のおいしさにも影響します。ダマ・粘度のばらつき・味の薄さなど、よくある失敗はちょっとした工夫で解決できます。基本のポイントを押さえておきましょう。
とろみ剤がダマになる原因と解決策
とろみ剤がダマになる主な原因は、一度に粉を入れることや、加熱中に加えて部分的に固まることです。防ぐには火を止めてから少しずつ混ぜる、または水やお湯で溶いた“スラリー状”にして加えるのが有効。冷たい飲み物はダマができやすいため、勢いよくかき混ぜながら加えるのがコツです。小さな工夫で仕上がりの滑らかさが安定します。
粘度が安定しない原因と調整方法
粘度が毎回違う原因は、量のばらつきや混ぜ方、温度の違いにあります。計量スプーンで毎回同じ量を使うと安定しやすく、温度が下がると粘度が強くなるタイプもあるため、とろみ剤の特徴を理解しておくことが大切です。スプーンから落ちる速度や液体の流れ方など、家庭でできる“粘度チェック”を持つと失敗がぐっと減ります。
味が薄くなる・水っぽくなる時の対策
水でとろみを調整しようとすると、味が薄まり、水っぽく飲み込みにくい状態になることがあります。出汁・牛乳・豆乳など“味のある液体”を使うと風味を保ちながらとろみがつけられます。さらに少量の油脂を加えるとコクが出て、水っぽさも軽減。とろみは水増しではなく“食材をまとめる技術”という意識で、調味・水分・油脂のバランスを整えることが重要です。
◼︎安全でおいしい介護食・嚥下食を学ぶという選択
ここまで嚥下食・介護食の調理やとろみについて解説をしてきました。
さらに詳しく介護食や嚥下食について学びたいという方に向けてFANTIST編集部がおすすめするのが、「はじめての嚥下食・介護食入門コース」です。
文字だけではなかなかわかりにくい「食感のやわらかさ」や「とろみの加減」も、動画なのでひと目で分かり、理解が深まります。医療機関や介護福祉事業所などの現場で個人の状態に合わせた調理法やレシピを提案してきた言語聴覚士の川端恵里先生が、わかりやすく解説しています。
身近な方に作る「安全でおいしい料理」について学びたいという方はぜひチェックしてみてください。