嚥下食はおいしくない?そんな誤解を変える調理のコツと食材選び
2025/12/26
介護食や嚥下食と聞くと、「味が薄そう」「見た目がいまひとつ」「仕方なく食べるもの」――そんなイメージを持っている方も多いかもしれません。
しかし実際には、咀嚼嚥下(そしゃくえんげ)の状態に合わせた工夫次第で、見た目も味も満足できる介護食・嚥下食を作ることができます。
この記事では、「おいしくない」と感じてしまう理由を紐解きながら、家庭で無理なく取り入れられる考え方や工夫をわかりやすくご紹介します。毎日の食事づくりが少しラクになり、「これなら続けられそう」と思えるヒントを見つけてみてください。
なお、嚥下食をおいしく作るためには、そもそも嚥下食や介護食がどんな考え方で作られているのかを知っておくことも大切です。嚥下食・介護食の基本や、家庭で気づけるサインについては、「嚥下食・介護食の基礎ガイド」で詳しく紹介しています。
目次
◼︎「嚥下食・介護食はおいしくない」と思われがちな理由
嚥下食(えんげしょく)は「おいしくない」「味気ない」といった印象を持たれがちですが、その背景には咀嚼嚥下の状態に合わせるための形状や調理法が影響していることもあります。まずは、なぜそう感じやすいのかを理解することが、改善の第一歩です。
見た目が単調になりやすい
嚥下食や介護食は、咀嚼嚥下を助ける形状に調整する過程でペースト状やとろみ付きになりやすく、見た目が単調になりがちです。食材の色が混ざりやすく、白・茶色・ベージュなど地味なトーンに偏るため「病院食のよう」とイメージされることもあります。
また、形が崩れてしまうことで料理としての華やかさが失われやすく、“おいしくなさそう”と誤解されてしまう背景があります。しかし、盛り付けや味の工夫次第で見た目の印象は大きく変えることができます。
食感・風味が損なわれやすい
嚥下食では、安全に飲み込めるよう柔らかさを重視するため、加熱しすぎて食感や風味が弱くなるケースがよくあります。「安全にする=味を我慢するもの」という誤ったイメージも、おいしくないと感じる理由の一つです。
しかし、火加減・水分量・調味料の入れ方を工夫すれば、柔らかさを保ちながら風味を活かすことも可能です。柔らかくしても“味がぼやける”とは限らず、調理の仕方で驚くほどおいしく仕上げられます。
◼︎調理の工夫で味は大きく変わる
嚥下食の味は、特別な技術がなくても“考え方”ひとつで大きく変わります。おいしさの基本を知ることで、柔らかさと風味を両立させる調理がぐっと簡単になります。
おいしさを決める3つのポイント
料理のおいしさは「味」「香り」「食感」の3つが揃ってこそ生まれます。嚥下食は柔らかさに意識が集中しがちですが、この3要素を押さえるだけで満足度が大きく変わります。柔らかくしても味付けをしっかり整えたり、香りの立つ食材を使うことで、“普通食に近いおいしさ”を再現できます。また、咀嚼嚥下の負担を減らす調理でも、一般的な料理と同じ調理理論を活用できるため、おいしさを諦める必要はありません。基本を押さえることで味は必ず伸びます。
やわらかさ=水っぽさではない
「水を足せばやわらかくなる」「薄めれば飲み込みやすい」というのは誤解です。水分を増やすと味が薄まるだけでなく、食材がまとまりにくくなり、かえって飲み込みづらくなることがあります。結果として、誤嚥につながる場合もあります。
そこで大切になるのが、水分ではなく“とろみ”で食材をまとめるという考え方です。とろみ調整の基本や注意点については、「嚥下食の『とろみ』を解説|とろみ調整のよくある失敗と改善策も紹介」で詳しく解説しています。
嚥下食で求められるのは“水っぽい柔らかさ”ではなく“まとまりが良く飲み込みやすい柔らかさ”。そのためには、とろみ剤を活用したり、食材本来の粘度や油脂を利用して適度な密度を保つことが重要です。水分に頼らず、食材の性質をいかした柔らかさが理想です。
◼︎嚥下食をおいしくする基本の工夫
嚥下食を「安全なだけでなくおいしく」するためには、押さえておくべき基本のコツがあります。水分・油脂・香りなど、ちょっとした工夫で味は見違えるほど変わります。
水分量の調整
嚥下食づくりでは、水を加えて柔らかくしようとすると、味が薄くなる・ベチャッとするなど失敗につながりがちです。そこで役立つのが“味のある水分”を使う方法。出汁・スープ・牛乳・豆乳などを使えば、風味を保ちながら柔らかさを調整できます。また、食材ごとに必要な水分量は異なるため、少しずつ加えて質感を確かめることが大切です。適切な水分量は咀嚼嚥下の動きを助け、まとまりのよい食形態にするための重要なポイントです。
油脂やとろみを味方につける
油脂はパサつきを抑え、コクや満足感を高めるだけでなく、のどごしを良くして飲み込みやすさにも貢献します。バター・ごま油・オリーブオイルなど、香りのよい油を少量使うだけで風味が格段にアップします。また、とろみは食材をひとまとまりにし、気管に入りにくくする重要な存在です。嚥下食=味気ないではなく、油脂やとろみを上手に使うことで、安全性とおいしさを両立させた食事に仕上げることができます。
香り・温度の大切さ
香りは食欲を強く刺激する要素で、嚥下食でも“おいしさの印象”を大きく左右します。また、料理が冷めすぎると香りが立たず、脂が固まって食べにくさが増してしまうことがあります。適切な温かさで提供するだけで、のどごしが改善し、風味も豊かになります。安全温度を守りながらも、できるだけ温かさを保つ工夫を取り入れることが大切です。香りと温度を意識するだけで、嚥下食の満足度は大きく向上します。
◼︎失敗しやすい調理と改善のヒント
肉・魚・野菜など、嚥下食では扱いが難しい食材があります。失敗しやすい理由を知り、適切な調理法を選ぶことで、食べやすさもおいしさも大きく改善できます。
肉がパサパサ・硬くなる理由
肉は火を通しすぎるとパサつき、咀嚼嚥下の負担が大きくなるため、下処理が重要です。また脂や水分が少ない部位ほど硬くなりやすく、刻むだけでは飲み込みやすさは改善しません。酵素を使った下処理(ヨーグルト・おろし玉ねぎ・パイナップルなど)や、低温でじっくり火を入れる調理法を取り入れると、しっとり柔らかく仕上がります。嚥下食でも、適切な調理で驚くほどおいしい肉料理が再現できます。
魚や野菜で起こりやすい悩み
魚は水分が飛びやすくパサつき、生臭さが残ることもあります。野菜は繊維が強く、そのままだと口に残って飲み込みにくい原因となります。蒸す・茹でる・煮るなど水分を含ませる調理法が向いており、さらにペースト化や裏ごしを加えると食べやすさが向上します。食材に応じた調理を選ぶことで、ただ柔らかくするだけでは出せない“自然なおいしさ”を引き出せます。
刻めば安全と思ってしまう
「食材を細かく刻めば食べやすい」と思われがちですが、繊維が残ると口の中でまとまりにくく、逆に飲み込みづらくなることがあります。食材によっては刻むより、やわらかく煮る・つぶす・とろみをつける方が安全な場合もあります。
水分を増やしすぎてしまう
食べにくさを補うために水分を足しすぎると、味が薄まりまとまりが悪くなることがあります。特にスープ状になりすぎると誤嚥リスクが高まることも。適度なとろみや粘度を意識し、食材が一つにまとまる状態を目指すことが大切です。
◼︎市販品・冷凍食品は「手抜き」じゃない
市販品や冷凍食品は、嚥下食づくりの強い味方です。「手抜き」ではなく、安心と効率を両立できる賢い選択肢。上手に活用するポイントを見ていきましょう。
ユニバーサルデザインフードの活用
ユニバーサルデザインフード(UDF)は、咀嚼嚥下のしやすさに配慮された市販食で、食べる方の状態に合わせて選べる点が大きな利点です。風味やバリエーションも豊富で、家庭調理だけでは難しい部分を補ってくれます。手作りと組み合わせることで、負担を減らしつつ“食事の幅”を広げる強い味方になります。
冷凍・レトルトを上手に取り入れるコツ
冷凍食品は、繊維がほぐれていたり味が染み込みやすいものが多く、介護食・嚥下食としても調理がしやすい一品です。また、レトルト商品は保存がきくのでストックしておけば忙しい日や疲れた日の心強い助けになります。「毎日手作りしなくては」という思い込みを手放しこういった商品も上手く活用することで、無理なく続けられる食事づくりが実現します。
◼︎家族と同じ食卓を楽しむための工夫
嚥下食でも、家族と同じ食卓を十分に楽しむことができます。別メニューにせず、心理的負担を減らしながら食事を共有するための工夫を紹介します。
別メニューにしなくていい工夫
家族と同じ料理をベースに、味付け前に取り分けたり、調理途中で柔らかく仕上げる部分だけ分けるなどの工夫をすれば、同じメニューを無理なく共有できます。嚥下食だからといって完全に別の献立にする必要はなく、「同じ食卓で同じものを食べている」という感覚が、本人の安心感にもつながります。作る側の負担も減るため、家族にとっても続けやすい方法です。
共食がもたらす心理的メリット
同じ食卓で食事を囲む“共食”には、孤独感を和らげたり、食欲を高めたりする心理的効果があります。家族と一緒に食べる時間は咀嚼嚥下に不安がある方の安心感につながり、「もっと食べたい」「頑張って食べよう」という意欲にも影響します。また、介護する側にとっても「一緒に楽しめている」という満足感が得られ、心の負担の軽減にもつながります。食事の形は違っても、同じ場を共有することに大きな価値があります。
◼︎安全でおいしい介護食・嚥下食を学ぶという選択
ここまで嚥下食・介護食の調理について解説をしてきました。
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身近な方に作る「安全でおいしい料理」について学びたいという方はぜひチェックしてみてください。